遺留分侵害額請求の流れと期限(旧・遺留分減殺請求)
「遺留分侵害額請求(いりゅうぶんしんがいがくせいきゅう)」とは、 令和元年7月1日以降に発生した相続について遺留分が侵害された場合は、「遺留分侵害額請求」をすることにより、侵害された遺留分に相当する額の金銭の支払いを要求することができます。
「遺留分減殺請求(いりゅうぶんげんさいせいきゅう)」とは、 令和元年6月30日以前に発生した相続について遺留分が侵害された場合は、「遺留分減殺請求」をすることにより、遺言書の効力を失効させ、その範囲内で財産を返せと要求することができます。
以下では、現在よく問題となる遺留分侵害額請求を中心に解説します。遺留分そのものの意味や割合・計算方法については遺留分とは?でご案内しています。
遺留分侵害額請求ができる相続人
遺留分侵害額請求ができるのは、遺留分が認められている配偶者・子ども(孫などの代襲相続人を含む)・直系尊属(父母・祖父母など)です。兄弟姉妹には遺留分がないため、請求できません。詳しくは遺留分が認められる人・認められない人をご覧ください。
遺留分侵害額請求の期限
遺留分侵害額請求の期限は、「相続の開始(被相続人の死亡)及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知ったときから1年以内 」、知らなかった場合は「相続が開始した時(被相続人が死亡した時)から10年以内 」です。
期限内にしなければならないのは、「遺留分侵害額を請求します」という意思を相手に伝えることです。この時点で、請求する金額まで決めておく必要はありません。財産の調査や金額の計算に時間がかかりそうな場合でも、まずは期限内に請求の意思を伝えておくことが大切です。
なお、請求の意思を伝えると、相手に対してお金の支払いを求める権利(金銭債権)が発生します。この権利にも別に時効があり、原則として5年で消滅します。請求の意思を伝えたまま放置しないよう注意しましょう。
遺留分侵害額請求の流れ
遺留分侵害額請求は、必ずしなければならないものではありません。被相続人の意思を尊重して、請求しないという選択もできます。請求する場合は、次のような流れで進めるのが一般的です。
1. 遺言と財産の全体像を把握する
「遺言書をちらっと見せられただけで、父親の財産の全体像はよく分からない…」というのはよくある話です。
遺言書で遺言執行者が指定されている場合は、遺言執行者に財産目録の交付を求めましょう。これによって、財産の全体像、さらには自分の遺留分がどの程度侵害されているかが把握できます。遺言執行者が指定されていない場合は、自分で財産を調べていく必要があります(相続財産調査)。
2. 内容証明郵便で請求の意思を伝える
遺留分を侵害している相手に、請求の意思を伝えます。後になって「請求を受けていない」「期限が過ぎてから請求された」と争われないよう、内容証明郵便に配達証明を付けて送るのが確実です。前述のとおり、この段階で具体的な金額を書く必要はありません。
3. 財産を評価する
請求額を計算するには、相続財産を金額に換算する必要があります。相続財産に不動産がある場合などは、評価が難しくなります。厳密にいえば時価で算定すべきですが、時価を表す公的な指標がないからです。
相続税の申告が問題になる場合は、相続税の申告書に記載されている金額(路線価)に基づいて話し合いをするのもひとつの方法です。
相続税を申告しないですむ場合や、路線価に納得いかない場合は、不動産業者に無料査定を依頼し、額を把握するという方法もあります。
こういった簡易な方法で話し合いの解決が難しい場合は、不動産鑑定士による鑑定を含めて検討することになります(費用がかかります)。
4. 請求額(遺留分侵害額)を計算する
遺留分の計算には、亡くなった時の財産だけでなく、一定の生前贈与も含まれます。そのため、あなた自身が被相続人から生前に多額の財産をもらっていた場合は、請求できる額が減ったり、請求できなかったりすることがあります。逆に、他の相続人が被相続人から生前に多額の援助を受けていた場合は、その分、より多くの金額を請求できることがあります。対象となる生前贈与の範囲は遺留分の対象となる財産をご覧ください。
ただし、生前の財産のやりとりについては十分な証拠がない場合も多く、裁判になった場合に認められるとは限りません。
請求できる額(遺留分侵害額)は、次の計算式で求めます。
遺留分侵害額 = 遺留分額 -(遺留分権利者が受けた特別受益・遺贈の額)-(遺産分割で取得する財産の額)+(承継する相続債務の額)
遺留分額(自分に保障されている遺留分の金額)の求め方は、遺留分の計算方法と遺留分の割合で解説しています。
【計算例】
たとえば、次のようなケースで考えてみましょう。
- 被相続人:父
- 相続人:長男・二男の2人(母はすでに死亡)
- 遺言の内容:「自宅(3,000万円)と預金(2,000万円)をすべて長男に相続させる」
- 生前贈与:二男は5年前に、住宅購入資金として父から600万円の援助を受けていた
このケースで、二男が遺留分侵害額請求をする場合の計算は以下のとおりです。
- 遺留分の計算の元になる財産:5,000万円 + 600万円(二男への生前贈与)= 5,600万円
- 二男の遺留分額:5,600万円 × 2分の1(遺留分全体の割合)× 2分の1(法定相続分)= 1,400万円
- 二男の遺留分侵害額:1,400万円 - 600万円(二男が受けた生前贈与)- 0円(遺産分割で取得する財産)= 800万円
したがって、二男は長男に対して800万円の支払いを請求できることになります。二男が最終的に受け取る額は、すでに受け取った生前贈与600万円と、請求する800万円を合わせた1,400万円となり、二男の遺留分額と一致します。このように、自分が受けた生前贈与は、すでに遺留分の一部を受け取ったものとして扱われます。
実際の事案では、不動産の評価額や、どの生前贈与を計算に含めるかで金額が大きく変わることが多いため、正確な金額を算出したい場合は弁護士にご相談ください。
話し合いのなかで相手から「自分は父親をこれだけ面倒みたんだから」「父親の事業のために、生前これだけの援助をしたんだから」などと言われる場合があります。これを 寄与分 といいます。しかし、遺留分侵害額請求に対しては、 寄与分は主張できない ことになっていますので、相手がもしこのようなことを言ってきても取り合う必要はありません。
5. 話し合いで解決を目指す
計算した金額をもとに、相手と支払額や支払方法を話し合います。合意ができたら、後のトラブルを防ぐため、合意書を作成しておきましょう。
6. 話し合いで解決しない場合は調停
相続人どうしの話し合いで決着がつかない場合は、家庭裁判所で調停を行います。調停委員が間に入ってくれますので、たとえば相手が遺留分のしくみや制度を理解せずに、かたくなな態度を取っている場合などは、有効な手段です。
7. 調停でも解決しない場合は訴訟
調停は家庭裁判所で行われますが、訴訟は地方裁判所(請求額が140万円以下の場合は簡易裁判所)で行われます。この段階になると、弁護士に依頼することをおすすめします。弁護士に依頼すれば、弁護士がかわりに裁判に行きますので、ご本人は裁判所へ出廷する必要がありません。
誰に、どの順番で請求するか
遺留分侵害額請求の相手は、遺言で財産を受け取った人(受遺者。「長男に相続させる」といった遺言で財産を取得した相続人を含みます)と、生前贈与を受けた人(受贈者)です。相手が複数いる場合は、民法で負担する順番が決まっています。
- 受遺者が先に負担します。遺言で財産を受け取った人と、生前贈与を受けた人の両方がいる場合は、まず遺言で受け取った人が負担します。
- 受遺者が複数いる場合は、受け取った財産の価額の割合に応じて負担します。ただし、遺言で別の定めがあれば、それに従います。
- 受贈者が複数いる場合は、新しい贈与を受けた人から順に負担します。受遺者の負担だけでは足りないときに、亡くなった時に近い贈与から順にさかのぼります。
なお、相手が相続人の場合は、その相続人自身にも遺留分があるため、受け取った財産のうち自分の遺留分を超える部分の範囲でのみ負担します。また、死因贈与(「自分が死んだら○○をあげる」という約束)については、遺贈の次、生前贈与より前に負担するとした裁判例があります。
相手が複数いるケースでは、誰にいくら請求できるかの計算が複雑になります。請求先を誤ると期限内に正しい相手へ請求できないおそれもあるため、早めに弁護士にご相談ください。
遺留分侵害額請求をされたら
遺言で多くの財産を受け取った方や、生前に贈与を受けた方のもとに、ほかの相続人から遺留分侵害額請求の内容証明郵便が届くことがあります。請求されたからといって、言われた金額をそのまま支払わなければならないわけではありません。まずは次の点を確認しましょう。
請求そのものが有効か確認する
- 請求している人に遺留分があるか:兄弟姉妹(おい・めいを含む)には遺留分がありません。
- 期限を過ぎていないか:相続の開始と遺留分の侵害を知った時から1年、相続開始から10年を過ぎた後の請求であれば、期限切れを主張して支払いを拒むことができます(遺留分侵害額請求の期限)。
請求額が妥当か確認する
- 財産の評価は適切か:不動産や非上場株式の評価額によって、請求額は大きく変わります。
- 請求している人自身が生前贈与(特別受益)を受けていないか:受けていれば、その分、請求額は減ります。
- 相続債務(借金)が考慮されているか:債務は遺留分の計算で差し引かれます。
なお、「親の介護をしてきた」といった寄与分は、遺留分侵害額請求に対しては主張できないとされています。
すぐに支払えない場合
遺留分侵害額はお金で支払うのが原則です。受け取った財産が不動産ばかりで、すぐに現金を用意できない場合は、裁判所に支払期限の猶予(期限の許与)を求めることができます。また、相手と合意できれば、お金の代わりに不動産などの財産を渡して解決することもできます。ただし、財産で渡す場合は譲渡所得として税金がかかることがあるため、税理士にも確認しましょう。
請求を放置しない
請求を無視していると、調停や訴訟を起こされたり、支払いが遅れた分の遅延損害金を請求されたりすることがあります。請求額に納得できない場合でも、根拠を示して話し合うことが大切です。当事務所では、遺留分を請求されている方からのご相談もお受けしています(弁護士に依頼する場合)。
旧法「遺留分減殺請求」との違い
令和元年6月30日以前に発生した相続については、「遺留分侵害額請求」ではなく「遺留分減殺請求」を行うことになります。請求できる相続人の範囲・期限(1年・10年)・請求の相手方への伝え方(内容証明郵便がおすすめである点)など、手続きの基本的な流れはこれまで説明した内容とほぼ同じです。
両者の最大の違いは、請求した結果どうなるかという点です。
- 遺留分侵害額請求(現行法):侵害された遺留分に相当する金銭の支払いを請求する権利です。
- 遺留分減殺請求(旧法):遺贈や贈与の効力を失効させ、不動産や株式などの現物そのものの返還を請求する権利です(共有状態になることが多く、その後の権利関係が複雑になりやすいという特徴があります)。
令和元年6月30日以前に発生した相続は年々少なくなっていますが、長期間放置されていた相続などでは今なお問題になることがあります。ご自身のケースがどちらの制度の対象になるかは、相続開始日(被相続人が亡くなった日)で判断しますので、迷った場合は弁護士にご相談ください。
遺留分の請求・対応を弁護士に依頼する場合
遺留分の請求は、期限が短いうえ、財産の調査や不動産の評価、生前贈与の扱いなど、金額に大きく影響する争点が多い手続きです。当事務所では、遺留分を請求したい方と、ほかの相続人から請求されている方の双方からご依頼をお受けしています。
当事務所のサポート内容
- 内容証明郵便の作成・発送:1年の期限内に、請求の意思を弁護士名で確実に伝えます。
- 財産の調査と金額の計算:預貯金の取引履歴や生前贈与の有無を調べ、遺留分侵害額を算定します。
- 交渉・調停・訴訟の代理:相手と直接やり取りすることなく、弁護士が代理人としてすべての手続きに対応します。
- 請求された側の対応:請求額が妥当かを検討し、財産評価や特別受益などの反論を整理して交渉します。
弁護士費用
交渉
着手金
22〜33万円
報酬金
33〜44万円
または経済的利益の11%のいずれか多い額
調停
着手金
33〜44万円
報酬金
44〜55万円
または経済的利益の11%のいずれか多い額
訴訟
着手金
55〜66万円
報酬金
55〜66万円
または経済的利益の11%のいずれか多い額
金額はすべて税込です。
※ 着手金・報酬金は、事案の難易度などに応じて加算されることがあります。実費(内容証明郵便の発送費用、印紙代・切手代など)が別途かかります。相談料は5,000円(税込)/30分です。詳しくは弁護士費用をご覧ください。
「遺言書の内容に納得できない」「遺留分を請求する内容証明が届いた」など、まずは状況をお聞かせください。請求の期限が迫っている場合は、お早めにご相談ください。