【第1回】誰が相続人になるのか?

第1回は、「誰が相続人になるのか?」です。

亡くなった人のことを「被相続人」、財産を受け継ぐ人のことを「相続人」と言います。
実は、「誰が相続人になるのか?」これは非常に重要な問題です。なぜなら、本来相続人になるはずの人を除外した遺産分割は、無効になってしまうからです。また、相続人でない人を含めて遺産分割をしてしまった場合にも、遺産分割が無効となるおそれがあります。折角、相続人が集まって遺産分割をしたのに、実は無効だったということがないよう、「誰が相続人になるのか?」を間違えてはなりません。
それでは、「誰が相続人になるのか?」、今回はこれを見ていきましょう。

相続人の種類

相続人は、配偶者血族相続人(子ども、父母、兄弟姉妹など)です。配偶者は常に相続人になりますが、血族相続人は、優先順位によって、相続人になれるかどうかが決まります。具体的に見ていきましょう。

配偶者

夫又は妻のことです。配偶者は常に相続人になります(民法890条)。ただし、既に離婚している場合には、相続人になれません。

内縁の配偶者も、相続人にはなれません。しかし、内縁の配偶者は、被相続人と生活を共にしてきた人ですから、できる限り保護する必要があります。例えば、2つの方法があります。

① 遺産の一部について、被相続人と内縁の配偶者が協力して築いた財産であるとして、内縁の配偶者の持分を認めることが考えられます(ただし、極めて特殊なケースに限られるでしょう。)。
② 相続人が誰もいない場合、内縁の配偶者は、「特別縁故者」として、遺産の全部又は一部がもらえる可能性があります。

※ 特別縁故者

被相続人と生計が同じだった人、被相続人の療養看護をしていた人など、被相続人と特別の縁故があった人を「特別縁故者」と言います(民法958条の3)。相続人が誰もいない場合、「特別縁故者」は、遺産の全部又は一部がもらえる可能性があります。

血族相続人

血族相続人(子ども、父母、兄弟姉妹など)には優先順位があります。自分より優先順位の高い人がいない場合に、はじめて、その人は相続人になれます。

  1. 子ども(第1順位)
  2. 実子であるか、養子であるかは問いません。なお、普通養子は、実親の子として相続人になりますし、養親の子としても相続人になります。どちらか一方のみの相続人になるわけではありません。特別養子の場合には、実親との親族関係がなくなるので、実親の子として相続人になることはできません。

  3. 父母又は祖父母(第2順位)
  4. 子どもがいない場合には、父母が相続人になります。子ども、父母がいない場合には、祖父母が相続人になります。

  5. 兄弟姉妹(第3順位)
  6. 子ども、父母、祖父母(その上の曾祖父母等も全員)がいない場合には、兄弟姉妹が相続人になります。父母双方を同じくする兄弟姉妹か、一方のみ同じくする兄弟姉妹かは問いません。

※ 胎児

胎児も、相続人になります。被相続人の子どもが胎児の場合には、子どもとして(第1順位)、被相続人の兄弟姉妹が胎児の場合には、兄弟姉妹として(第3順位)、相続人になるのです。 胎児は、まだ生まれていません。人は、出生して初めて、権利を持つことができるので(民法3条1項)、胎児は相続人になれないようにも見えます。しかし、もうすぐ生まれてくる胎児に何の相続権もないのでは、胎児が著しい不利益を被ります。そこで、民法は、相続の場合には特別に胎児を生まれたものとみなし(民法886条1項)、胎児が相続人となると定めています。 注意すべきなのは、胎児が生まれるまで、遺産分割を待ったほうがよいことです。胎児は、自分で遺産分割の話合いをすることができませんし、生まれるまでは、父母が胎児を代理して話合いをすることもできません。 胎児を除外した遺産分割は、相続人の一人を除外したものとして、無効になってしまいます。

相続人が既に亡くなっていた場合

本来、相続人となる人が、被相続人死亡の時点で既に亡くなっていた場合、その人の子や孫(直系卑属といいます。)が代わりに相続人になります(代襲相続と言います。)。代襲相続には次の2つのパターンがあります。

被相続人の子が既に亡くなっていた場合

被相続人の子の子(被相続人の孫)が相続人になります。被相続人の子の子(被相続人の孫)も亡くなっていた場合には、被相続人の孫の子(ひ孫)が相続人になります。

例えば、 A(被相続人)が、Bを養子にしたとします。A(被相続人)が、Bを養子にした後、Bに子Cが生まれました。Cは、Aの子の子(被相続人の孫)なので、Aの相続人になるのです。

ただし、例外があります。血族関係がない場合です。
例えば、さっきの例と同じく、A(被相続人)が、Bを養子にしたとします。しかし、AがBを養子にした時点で、既にBに子Cがいたとしましょう。この場合、AとCとの間に、血族関係は生じないのです。 そのため、Cは、A(被相続人)の子の子(被相続人の孫)ではありますが、AとCの間に、血族関係がない場合が生じるのです。この場合、Cは、Aの相続人になれません

養子縁組をした後に、養子の子(C)が生まれたか、養子縁組をした時点で、すでに養子の子(C)が存在するかによって、このような違いが生じるのです。
養子縁組

被相続人の兄弟姉妹が既に亡くなっていた場合

兄弟姉妹の子が相続人になります。注意しなければならないのは、兄弟姉妹の子の子(兄弟姉妹の孫)は、相続人とならないことです(昭和56年1月1日以降に開始した相続に限ります)。通常、兄弟姉妹の孫とは疎遠なことが多いことから、民法は、兄弟姉妹の子の子(兄弟姉妹の孫)は、相続人にならないと定めたのです。

※ 被相続人の夫または妻が既に亡くなっていた場合

夫または妻の代わりに、子が相続人になることはありません。例えば、A(被相続人)には、妻のBと、その連れ子Cがいたとします。Aは、Cを養子にしておらず、親子関係がありません。AよりBが先に亡くなった場合でも、Cは相続人になれません。血族関係のない人が、相続人とならないよう、CがBの代わりに相続人になることはできないとされているのです。

相続人が相続に関する犯罪行為等をした場合

本来相続人となる人が、相続に関して犯罪行為等をした場合、「相続欠格」「廃除」となり、相続人になれません。この場合、法律関係は、「2 相続人が既に亡くなっていた場合」と同じです。相続人が既に亡くなっていた場合と、犯罪行為等をして相続から除外された場合を同じように考えるのです。

ただし、あくまで特定の被相続人の相続に関し除外されるだけです。父の相続人にはなれたが、母の相続人にはなれないということもあり得ます。

相続欠格

相続欠格にあたると、被相続人の意思に関係なく、相続人になれません。全部で5つの欠格事由があります(民法891条)。簡単にまとめると、次のとおりです。

  1. 被相続人や、自分より優先順位が高い相続人を殺害した場合
  2. 被相続人が殺害されたことを知ったのに、告訴しなかった場合
  3. 詐欺や強迫をして、遺言を書くのを妨害した場合
  4. 詐欺や強迫をして、遺言を書かせた場合
  5. 遺言書を破いたり、隠した場合

問題となりやすいのは、「5 遺言書を破いたり、隠した場合」です。遺言書を破かないようにしましょう。万が一、不注意で遺言書を破ってしまった場合でも、相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、相続欠格者とはなりません。

相続欠格にあたると、遺言によって財産をもらうこともできません。ただし、借金を相続したくないという理由で、自分から相続欠格者であると主張することは許されない場合があります。

廃除

被相続人を虐待した人などに相続させたくない場合、被相続人は、家庭裁判所に「廃除」の申立てをすることができます(民法892条)。廃除された人は、相続人になれません。例えば、次の場合に、廃除の申立てをすることができます。

  1. 被相続人を虐待した場合
  2. 被相続人に重大な侮辱をした場合
  3. 相続人自身に著しい非行があったとき

相続欠格とは違い、遺言によって財産をもらうことはできます。

相続放棄をした場合

相続放棄をした人は、相続人になれません。さらに、相続放棄をした人の子や孫も、相続人になれません。

相続放棄をする場合、被相続人に借金があることも多いため、相続放棄の意思を、「自分や、自分の子、孫は相続人になりません。」という意思であるとみなすことにしたのです。

注意すべきなのは、ある相続人が相続放棄をした場合、次の優先順位の人が相続人となってしまうことです。例えば、被相続人の子ども(第1順位)全員が相続放棄をした場合、相続人は被相続人の父母など(第2順位)となり、さらに、父母も相続放棄をした場合、相続人は、被相続人の兄弟姉妹(第3順位)となるのです。そのため、借金を相続したくない場合、相続放棄は、相続人になる可能性がある人全員で行うのがよいでしょう。

※ 相続放棄

相続放棄をした人は、はじめから相続人にならなかったものとみなされます。被相続人の資産も借金も、相続しないことになるのです。被相続人が死亡したこと、及び自己が相続人となったことを知った時から、3か月以内に、家庭裁判所に対し、相続放棄の申述をすることができます。 相続人が未成年者の場合には、被相続人が死亡したこと、及び未成年者が相続人となったことを、「親権者が」知った時から3か月以内となります(民法917条)。 もし、3か月を過ぎてしまった場合でも、全く資産・借金がないと信じていた場合には、他にも要件はありますが、相続放棄できる場合があります。

相続放棄をした場合には、証明書として、家庭裁判所から「相続放棄申述受理証明書」をもらっておきましょう。

なお、相続放棄に似た言葉として「相続分の放棄」があります。相続分の放棄をすると、遺産を取得しないことになります。注意すべきなのは、「相続分の放棄」をしても、借金を相続してしまうことです。借金を相続したくない場合には、「相続放棄」をしましょう。

相続人の資格が2つある場合

相続人の資格が2つある場合があります。2人分の相続分がもらえるか否かは、場合によります。

2人分の相続分がもらえる場合

相続人の資格

例えば、A(被相続人)が自分の孫Cを養子にしていたとします。Cは、Aの子ども(養子)となるので、相続人になります。

ここで、Aの子B(Cの親)が亡くなっていたとしましょう。Cは、Bの代わりとしても、相続人になるのです。これが、相続人の資格が2つある場合です。この場合には、Cは、2人分の相続分がもらえます。

裁判官によって考え方が分かれる場合

相続人の資格

例えば、A(被相続人)には、夫のBがいました。Aには、子ども、父母がいないので、Aの夫Bと、Aの兄弟姉妹が相続人になるとします。

ここで、Aの父母が、Bを養子にしていたとしましょう(婿養子)。Bは、Aの兄弟姉妹ということになります。この場合、Bは、Aの夫として相続人になりますが、Aの兄弟姉妹としても相続人になるのでしょうか。

このケースでは、裁判官によって考え方が分かれるので、結論が決まっているわけではありません。

相続人が行方不明の場合

相続人が生きていることは分かっているが行方不明の場合、まずは住所を調べることになります。どうしても住所が分からない場合、その相続人を「不在者」として、代わりに遺産分割を行う「不在者財産管理人」を選任する必要があります。

※ 不在者財産管理人

不在者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対し、「不在者財産管理人」の選任を申し立てることができます(民法25条)。最後の住所地も不明の場合は、遺産の所在地を管轄する家庭裁判所に申し立てることもできます。

相続人が生死不明の場合

調査しても相続人が生きているか死んでいるか分からない場合、相続人の従来の住所地を管轄する家庭裁判所に対し、失踪宣告を申し立てることができます(民法30条)。失踪宣告を受けると、相続人は死亡したものとみなされます。2つのパターンがあります。

  1. 生死が7年間明らかでないとき
  2. 死亡の原因となる危難(沈没した船の中にいた等)に遭遇し、その危難が去った後、生死が1年間明らかでないとき

被相続人が相続人を増やしたい場合

本来相続人ではない人を相続人と同じように扱ってほしい場合、2つの方法があります。

  1. 養子にする。
  2. 養子は、被相続人の子として相続人になります。

  3. 包括遺贈をする。
  4. 包括遺贈をしても、相続人になるわけではありません。しかし、相続人に似た地位を与えることができます。

※包括遺贈

遺言によって、特定の人に資産・負債の全部又は一定割合を与えることをいいます。 例えば、遺言によって、「遺言者の有する財産の全部を、B、Cの2名に対し、2分の1ずつの割合で、それぞれ包括して遺贈する。」などと書きます。

包括遺贈を受けた人と、相続人の違いとして、次のものがあります。
① 包括遺贈を受けた人には、遺留分がありません。
② 包括遺贈を受けるはずだった人が、被相続人より先に亡くなった場合、包括遺贈を受けるはずだった人の子どもが、代わりに包括遺贈を受けることはできません。
③ 他の相続人が相続放棄をしても、包括遺贈を受けた人の相続分は増えません。
④ 保険金受取人として「相続人」と書かれている場合、包括遺贈を受けた人は、「相続人」には当たりません。

相続人ではない人を含めて遺産分割したい場合

被相続人の内縁の配偶者は、相続人にはなれません。しかし、内縁の配偶者は、被相続人と生活を共にしてきた人であり、その人の意見も踏まえて、遺産分割をしたい場合もあります。

このように、相続人ではない人を含めて遺産分割したい場合、相続人の1人が、相続人ではない人に対し、「相続分の譲渡」をすることができます(ただし、他の相続人から相続分取戻請求をされるおそれはあります。)。口頭だけで相続分の譲渡を受けた場合、撤回される可能性もあるので、書面を作成して実印を押してもらい、印鑑登録証明書をもらいましょう。相続分を譲渡してしまった人は、遺産分割の話合いに参加することはできなくなります。ただし、相続分の一部だけを譲渡できるとの見解に従うと、相続分を一部だけ譲渡すれば、譲渡した人も遺産分割の話合いに参加することができます。

相続に外国人が関係する場合

被相続人が外国人の場合

被相続人が外国人の場合、被相続人の本国の法律が適用されます。誰が相続人になるのかは、その国の法律によって様々です。

相続人に外国人がいる場合

相続人に外国人がいる場合でも、被相続人が日本人であれば、日本の法律が適用されます。したがって、外国人であっても、相続人になることができます。

相続人の調査方法

戸籍を集めて相続人を調査することになります。3段階に分けて、戸籍を集めましょう。

  1. 第1に、被相続人の出生時から死亡時までの戸籍を取得する必要があります(ただし、被相続人の子どもが相続人になることが明らかな場合は、被相続人の12~3歳からの戸籍を調査すれば足ります。)。
  2. まず、被相続人の除籍謄本を取得します。除籍謄本は、被相続人の本籍地の市町村役場で取得することができます。郵送でも可能です。これにより、死亡時の戸籍が取得できたことになります。

    ここから、ひとつ前の戸籍に順番に遡り、出生時までの戸籍を取得します。被相続人が本籍を変えていない場合には、1つの役所で全ての戸籍が揃うことがあります。しかし、本籍を転々としている場合には、それぞれの役所から戸籍を取得する必要があります。

  3. 第2に、相続人が分かるまで、順次必要な戸籍を取得します。
  4. 「誰が相続人になるのか?」は、ここまでの説明をご参照ください。

    一例を挙げると、A(被相続人)に子Bがいたが、Aより先に亡くなっていた場合、Bの子Cが相続人になります。そのため、Bに子Cがいること、C以外には子がいないことを戸籍から明らかにする必要があります。そこで、Bの出生時から死亡時までの戸籍を取得して、Bの子がCだけであることを確認する必要があるのです。

  5. 第3に、相続人が分かったら、その人の現在の戸籍を取得する必要があります。
※ 戸籍が取得できない場合

震災や戦災で、戸籍がなくなってしまう場合があります。戸籍が発行できないという告知書しか取得できないのです。この場合には、告知書を持参して、各機関に相談しましょう。例えば、被相続人の預金を引き出したい場合には銀行に相談し、不動産を相続人名義にしたい場合には法務局に相談しましょう。

※ 改製原戸籍

戸籍は、何度か改製されています。例えば、市町村の事情によりますが、平成6年から、紙の戸籍がコンピューター化されました。注意すべきなのは、改製前の戸籍に記載されている情報が、すべて改製後の戸籍に引き継がれるわけではないことです。紙の戸籍には、被相続人に子どもがいること、その子どもが結婚して別の戸籍に転籍したことが記載されていますが、コンピューター化された後の戸籍には、被相続人に子どもがいることが記載されていないこともあるのです。

相続人の住所の調査方法

相続人が分かったら、相続人全員で「誰が何を相続するのか」を決める必要があります。そのため、相続人が分かったら、相続人の住所を調べて、相続人全員と連絡をとる必要があります。調査方法は、以下のとおりです。

相続人の戸籍の附票を取得します。しかし、住所を去った後その届出をしていなかった場合、公的な書類から相続人の住所を調査することはできません。どうしても住所が分からない場合には、その相続人を「不在者」として、代わりに遺産分割を行う「不在者財産管理人」を選任する必要があります。

相続人の範囲に争いが生じる場合

戸籍を調査すれば、基本的に、相続人が判明します。しかし、戸籍上の相続人と実際の相続人が違う場合があります。例えば、次のケースです。

  1. 認知が取り消された場合、嫡出否認がされた場合など
  2. 死後認知がされる場合など
  3. 婚姻が無効だった場合など
  4. 失踪宣告により、相続人が死亡したとみなされた場合など
  5. 相続人が「廃除」された場合など

1~3に争いがある場合、まずは調停を行い、それでも決着が着かない場合には裁判をすることになります。

終わりに

【第1回】「誰が相続人になるのか?」に関するコラムは以上です。
「誰が相続人になるのか?」は、非常に重要な問題です。困ったときには、お気軽にご相談ください。