【第7回】具体的な分割方法
第7回は、「具体的な分割方法」です。
前回までの説明により、各相続人の相続分が分かったと思います。それでは、いよいよ具体的な分割方法を検討していきましょう。
遺産分割手続きには、主に、①協議による遺産分割、②調停による遺産分割、③審判による遺産分割があります。
また、具体的な分割方法には、①現物分割、②代償分割、③換価分割、④共有分割の4種類があります。
いずれの分割方法をとるかは、全相続人の話合い等により決まります。裁判所において遺産分割をする場合、最終的には、裁判所の裁量により、具体的な分割方法が定まりますが、可能な限り相続人の意向は尊重されています。
裁判所における分割方法の順序としては、まず①現物分割が検討され、②現物分割が困難な場合は代償分割が検討され、③代償分割も困難な時は換価分割が検討され、④いずれも困難な場合には、共有分割が検討されます。
まずは、それぞれの遺産分割手続きの内容を見ていきましょう。
具体的な分割方法
現物分割
現物分割は、個々の遺産の性質等を変更することなく相続人に取得させる分割方法です。
例えば、遺産である不動産を、相続人の1人にそのまま取得させることはもちろん、土地を分筆して取得させる場合も含まれます。
土地の現物分割
土地を分筆して登記する場合には、地積測量図を添付する必要があります(その前提として地積測量を行う必要があります。)。 分筆のための線引き作業は、通常、不動産鑑定士の意見によります。 また、建物を区分して登記する場合には、建物図面及び各階平面図を添付する必要があります。
注意すべきなのは、特に土地の分筆によって路地上敷地が生じる場合等には、建築基準法、建築安全条例、建築基準法施行条例等を確認する必要があることです。路地上敷地とは、道路から奥まった場所に位置し、路地上部分(通路)によってのみ道路に接する土地を意味します。
借地権の現物分割
借地権を相続人の1人が単独で相続する場合には、貸主である地主の承諾は不要です。
しかし、借地権を区分して複数の相続人が取得する場合には、貸主である地主の承諾が必要です。
上場株式の現物分割
遺産である株式につき、単位株制度が定められている場合があります。単位株とは、一定額の額面を満たす株式を一単位とし、その単位に満たなければ議決権等の権利行使や譲渡が制限される株式を意味します。
このように、単位未満株式には種々の制限があるので、裁判所が、単位未満株式を生じさせる現物分割をすることは考え難いといえます。
代償分割
代償分割とは、相続人の一部に、相続分を超える遺産を取得させ、その代わりに他の相続人に対して債務を負担させる分割方法です。
裁判所において、代償分割をする場合には、①現物分割が不適当であること、②全相続人の間で代償分割によることにつき概ね争いがないこと、③債務を負担する相続人に支払能力があることが必要です。
支払能力は、例えば、銀行支店長名義の融資証明書、預金通帳の写し等で確認する場合もあります。
代償金は即時に一括で支払うことが原則ですが、裁判所では、5年以内の支払猶予期間を定めたり、10年以内の分割払いを認めることもあります。これらの場合には、利息をつけることがあります。
※税金(税法は頻繁に改正されるので、詳細は税理士にご相談ください。)
代償財産を取得した者の相続税課税価格は、相続により取得した財産の価額と代償財産の価額の合計額です。
代償財産を交付した者の相続税課税価格は、相続により取得した財産の価額から交付した代償財産の価額を控除した額です。 代償金の金額に関し、土地の相続税評価額と実勢価格の乖離が問題となります。
例えば、実勢価格1億円の土地をAさんが取得し、Bさんに対し、代償金5000万円を支払う場合、土地の相続税評価額が5000万円であれば、Aさんの相続財産は5000万円から5000万円を控除した0円になります。そのため、相続税の申告に際し、時価按分方式で申告することが認められています。
すなわち、代償金の評価額を、代償金の金額×代償金の基礎となった資産の相続税評価額÷代償金の基礎となった資産の実勢価格とするのです。
先程の例だと、5000万円×5000万円÷1億円=2500万円です。Aさんの相続財産も、5000万円から代償金2500万円を控除した2500万円になるのです。
なお、代償財産として、金銭以外の資産を交付した相続人に対しては、譲渡所得税が課されます。 代償金を取得した相続人については、遺産を他の相続人に譲渡した代わりに代償金を取得したようにみえますが、譲渡所得税は課されません。
遺産を取得した相続人が、その後遺産を売却した場合でも、代償金は、譲渡所得税の計算の際の取得費とはなりません。
換価分割
換価分割とは、遺産を換価して、その代金等を分割する方法です。
換価の方法には、①任意売却、②競売があります。裁判所から換価を命じられる時にも、任意売却又は競売のいずれかが指定され、かつ、売却代金を保管する財産管理人も選任されます。
任意売却は、競売よりも高額での売却が期待できます。任意売却により換価する場合には、最低売却額、売却期限、売却担当者、売却代金から控除する費用の項目、相続登記手続き費用、所有権移転登記手続き費用、司法書士費用の清算方法、売却担当者の経過報告や報酬、売却ができなかった時の措置を決めたうえで、売却手続きをします。
※税金(税法は頻繁に改正されるので、詳細は税理士にご相談ください。)
換価分割をする場合には、いったん相続した遺産を売却することになるため、相続税に加え、譲渡所得税も課されます。
もっとも、相続税の申告期間後、一定の期間(例えば、3年)を経過する日までの間に相続税額の基礎になった財産を売却した場合には、譲渡所得税の計算の際、相続税相当額を取得費として算入できます。
共有分割
共有分割とは、遺産の全部または一部を共有して取得する分割方法です。共有状態を解消したい場合には、あらためて共有物分割協議や共有物分割訴訟をする必要があります。
なお、相続人だけではなく、第三者も遺産を共有する場合、これらの共有状態を解消するためには、遺産分割手続きではなく、共有物分割協議又は共有物分割訴訟が必要です。第三者を遺産分割の争いに巻き込むのは、適切ではないからです。
その他の分割方法
例えば、相続人の1人が不動産を取得し、他の相続人に対し賃借権等を設定させる分割方法も可能です。
取得希望が競合した場合
各相続人の取得希望が競合した場合には、①相続人の年齢、職業、経済状態、②相続開始前の遺産の利用状況、③遺産取得の必要性、④取得希望の程度、⑤遺産管理能力、⑥被相続人の意思等を考慮して、具体的な分割方法が定められます。
分割の時期
遺産分割請求権は時効にかかりません。そのため、相続人は、いつでも分割を請求できます。ただし、相続税の申告・納付期限(相続開始のあったことを知った日の翌日から10か月以内)には注意しましょう。
遺言によって、5年以内は分割を禁止することができます。しかし、遺言執行者がいない限り、全相続人が合意すれば、遺産分割をすることができます。また、分割を禁止した後、著しい事情変更があれば、裁判所に分割審判を求めることもできると考えられます。
一部分割
例えば、分割が容易なものを先に分割する場合や、遺産であることにつき争いがないものを先に分割する場合、一部分割をすることが考えられます。
一部分割をする場合には、一部分割する遺産を明確にすること、一部分割が残余財産の分割に影響するかどうかを明確にすることが必要です。一部分割の内容が相続人にとって不公平である場合には、残余財産の分割の際に、一部分割の結果が考慮される場合があります。