【第6回】寄与分

第6回は、「寄与分」です。

相続人の中に、被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときに、相続人間の公平を図るための制度が、「寄与分」です。

具体的には、「寄与分」に該当する行為があった場合、被相続人の遺産の額(借金は控除しません。)から寄与分を控除したものを相続財産とみなします。 このみなし相続財産を基礎に、相続人の相続分を計算して、寄与をした相続人については、相続分に寄与分を加算することになります。

例えば、被相続人Aが死亡し、相続人は、子であるB、C、Dの場合を考えてみましょう。遺産は4000万円で、Bは、Aに対し、1000万円の寄与をしていたとします。

まず、遺産4000万円-1000万円=3000万円が、みなし相続財産となります。
各相続人の相続分は、3000万円÷3人=1000万円です。
Bだけは「寄与分」を加算するので、1000万円+1000万円=2000万円となります。
最終的に、B2000万円、C1000万円、D1000万円となります(合計4000万円)。

以上のように、「寄与分」を受けたBの取り分を多くし、相続人間の公平を図るための制度が「寄与分」なのです。
それでは、どのような場合に「寄与分」が認められるのかを見ていきましょう。

寄与分の要件

寄与分が認められるためには、①相続人自らの寄与であること、②寄与が「特別の寄与」であること、③被相続人の財産が維持又は増加したことが必要です。

相続人自らの寄与であること

相続人以外の者の寄与

相続人以外の者の寄与を相続人の寄与に含めることができるか否かについては、両説あります。

もっとも、実務上は、相続人以外の者の寄与が相続人の寄与と同視できる場合には、相続人の履行補助者として、相続人の寄与に含める扱いをすると思われます(ただし、相続人以外の者が、自らの寄与につき独自に不当利得返還請求等をする場合は別です。)。例えば、会社員である相続人の代わりに、その配偶者が被相続人の事業に従事した場合等が考えられます。

包括受遺者

包括受遺者は寄与分の主張をすることができないとする見解が多いと思われます。

もっとも、別の見解もあります。被相続人が、ある者に対して包括遺贈をした場合、その者の寄与の程度に満たない財産しか遺贈されていない場合には、別途寄与分として考慮されるとする見解です。

代襲相続人の寄与分

代襲相続人は、被代襲相続人の寄与に基づく寄与分を主張できます。代襲相続人が、相続人となる前に自ら寄与をした後、相続人となった場合には、肯定説及び否定説どちらの見解もあります。

配偶者や養子になる前の寄与分

配偶者や養子になる前に、自ら寄与をした後、被相続人の配偶者や養子となった場合には、肯定説及び否定説どちらの見解もあります。寄与分を認める見解が多いと思われます。

先妻の子の寄与分

被相続人の先妻の子は、先妻の寄与分を主張できないとする見解が多いと思われます。先妻は相続人ではないので、寄与分を主張する前提に欠けること等を理由とします。

もっとも、私見としては、相続人以外の者の寄与と同じように、先妻の寄与が先妻の子の寄与と同視できる場合には、寄与分を認める余地があると考えます(通常、そのような関係は想定し難いですが。)。

相続人が経営する会社による給付

相続人が経営する会社が被相続人に対して、財産を給付したとしても、相続人による給付と同視することはできません。そのため、通常、寄与分とは認められません。

寄与が「特別の寄与」であること

夫婦間の扶助義務、親族間の扶養義務の範囲内の行為は、寄与分として認められません。なお、親族間の扶養義務よりも、夫婦間の扶助義務のほうが、通常期待される義務の程度が高いといえます。

被相続人の財産が維持又は増加したこと

精神的な援助をしただけでは、寄与分は認められません。

寄与によって被相続人の財産が増加したが、その後被相続人が事業に失敗する等して、財産が減少した場合には、寄与分は認められません。もっとも、寄与がなければ、さらに財産が減少したといえる場合には、寄与分が認められる可能性があります。

寄与行為の時期

寄与行為は、相続開始時までになされなければなりません。

もっとも、相続開始後の寄与行為は、遺産分割の際の一切の事情として考慮されます。また、相続開始後の寄与行為は、別途民事訴訟によって請求できる可能性はあります。

寄与分の評価時点

寄与分の評価は、相続開始時(被相続人の死亡時)を基準とします。

ちなみに、遺産を評価するときには、実際に遺産分割をする時を基準とします。そのため、寄与分が問題となる件では、相続開始時と遺産分割時の2時点の評価が必要となるのです。

寄与分の具体的算出方法

寄与分の具体的算出方法としては、例えば、以下の3つがあります。なお、寄与分を定めるにあたっては、裁判所の裁量が認められています。

  1. 相続財産全体に対する寄与分の割合を算出する方法
  2. 寄与の具体的金額を算出する方法
  3. 相続財産のうち、特定の財産を寄与分とみなす方法

特別受益と寄与分の関係

寄与者と特別受益者が同一人物の場合

被相続人に対して寄与をした相続人が、被相続人から遺贈や生前贈与を受ける場合があります。これらの遺贈や生前贈与が寄与の対価と認められる場合には、寄与分は認められず、かつ、特別受益も認められません。

寄与に比べて生前贈与等の額が明らかに低ければ、寄与分が認められる可能性があります。逆に、寄与に比べて生前贈与等の額が明らかに高ければ、特別受益が認められる可能性があります。

寄与に比べて生前贈与等の額が明らかに高い場合

寄与に比べて生前贈与等の額が明らかに高い場合の計算方法は、以下のとおりになると思われます。もっとも、この考え方の中にも、2つの見解があります。

例えば、被相続人Aの相続人が、子B、子C、子Dの場合を考えてみましょう。遺産は2000万円、子Bの寄与分1000万円、子Bへの生前贈与2000万円だとします。

まず、遺産2000万円-寄与分1000万円+生前贈与2000万円=3000万円です。当該みなし相続財産に相続分を乗じると3000万円×1/3=1000万円です。そのため、B1000万円、C1000万円、D1000万円となりますが、Bに対して寄与分1000万円を加え、かつ、特別受益2000万円を控除する必要があります。

ここで考え方が2つに分かれます。ポイントは、特別受益を控除する時に、寄与分からも控除するか否かです。
1つ目の見解は、寄与分から特別受益の額を控除してよいと考える見解です。先程の例では、Bの1000万円の相続分にまず寄与分1000万円を加え、そこから特別受益2000万円を控除します。結局、Bの取得額は0円になります。

2つ目の見解は、寄与分から特別受益の額を控除しない見解です。先程の例では、Bの1000万円の相続分からまず特別受益2000万円を控除し、0円とします。そこに寄与分1000万円を加えます。結局、Bの取得額は1000万円となり、寄与分は確保されたことになります。

以上のように説は分かれていますが、寄与分から特別受益の額を控除することを否定した裁判例があります(東京高決平成22年5月20日)。もっとも、寄与分や特別受益の額は、裁判所等が定めるものであるため、その額を調整すれば、上記の2つのいずれの見解をとったとしても、結論は同じになる可能性があります。そうすると、上記2つの見解は、結論を導く際の、説明の違いにすぎないとも考えられます。

寄与者と特別受益者が別人の場合

寄与分と特別受益を「同時に」適用することになります。

例えば、被相続人Aの相続人が、子B、子C、子Dの場合を考えてみましょう。遺産は5000万円、子Bの寄与分1000万円、子Dへの生前贈与200万円だとします。

まず、遺産5000万円-寄与分1000万円+生前贈与200万円=4200万円です。当該みなし相続財産に相続分を乗じると4200万円×1/3=1400万円です。結局、B2400万円(1400万円+寄与分1000万円)、C1400万円、D1200万円(1400万円-特別受益200万円)となるのです(合計5000万円)。

超過特別受益者がいる場合

例えば、被相続人Aの相続人が、子B、子C、子Dの場合を考えてみましょう。遺産は3000万円、子Bの寄与分900万円、子Dへの生前贈与1000万円だとします。

まず、遺産2000万円-寄与分900万円+生前贈与1000万円=2100万円です。当該みなし相続財産に相続分を乗じると2100万円×1/3=700万円です。そうすると、B1600万円(700万円+寄与分900万円)、C700万円、D0円(700万円-特別受益1000万円)となります(合計2300万円になってしまうのです。)。

BとCの取分は合計2300万円であるにもかかわらず、遺産は2000万円しかありません。そこで、遺産2000万円を、各相続人の相続分の割合で分けることになります。具体的には、BとCの相続分の割合は、1600万円:700万円なので、B1391万3043円(2000万円×1600万円/2300万円)、C608万6957円(2000万円×700万円/2300万円)になるのです。

なお、これでは寄与分を有する者がより多くの負担をすることになってしまうという理由から、民法903条による相続分の割合で超過分を負担すると考える見解もあります。

寄与分の代表的な態様

家業従事型

被相続人の家業(農業、医師等)に従事する場合です。営利事業に限られません。

先程お話ししたとおり、寄与分が認められるためには、①寄与が「特別の寄与」であること、②被相続人の財産が維持又は増加したことが必要です。

特別の寄与

家業従事型の場合、特別の寄与といえるためには、ア、特別の貢献 イ、無償性 ウ、継続性 エ、専従性が必要です。

ア 特別の貢献

夫婦間の扶助義務や、親族間の扶養義務の範囲を超えた特別の貢献が必要です。

イ 無償性

寄与にある程度見合った対価が支払われたときは、寄与分は認められません。これに対し、報いられていない部分があるときは、寄与分が認められる可能性があります。

ウ 継続性

約3~4年、家業に従事することが必要であるとする見解があります。

エ 専従性

家業に専念することまでは不要です。もっとも、時々家業を手伝っていただけでは足りず、相当の負担があったことが必要です。

相続人の財産が維持又は増加したこと

被相続人の経営する会社への従事

被相続人ではなく、被相続人が経営する会社に従事した場合、原則として寄与分は認められません。

もっとも、被相続人と被相続人が経営する会社とが経済的に極めて密接な関係にあり、会社への従事が被相続人の財産の維持又は増加と明確に関連している場合には、寄与分が認められる可能性があります。

寄与分の評価

家業従事型の寄与分の評価方法は、「寄与行為に関する相続開始時における標準的な報酬額×(1-生活費控除割合)×寄与の期間」です。

標準的な報酬額は、家業と同種同規模の事業における同年齢層の給与額を参考にします。具体的には、厚生労働省の賃金構造基本統計調査等を参考にします。

生活費を控除するのは、寄与をした相続人の生活費が家業収入の中から支出されていることが多いからです。生活費を自分で支払っていた場合には、生活費を控除しません。生活費控除率は、交通事故事案の場合に用いられる3割~5割の控除率を用いることもあります。

なお、寄与の結果、特定の相続財産の維持又は増加に貢献した場合には、当該相続財産の一定割合をもって寄与と評価したほうが適切な場合もあります。

上記の方法で算出した額に加えて、配偶者の法定相続分は家事労働や夫婦間の扶助義務を前提としたものであること等の一切の事情を考慮して、寄与分の額を定めることになります。例えば、約10年以上家業に従事した場合に、遺産総額の10%~30%の寄与分が認められることもあります。なお、共同経営の場合には、標準的な報酬額+利益配分額が基準となります。

金銭等出資型

被相続人に対して、金銭等を贈与する場合です。①寄与が「特別の寄与」であること、②被相続人の財産が維持又は増加したことが必要です。継続性と専従性は不要です。

特別の寄与

ア 特別の貢献
イ 無償性

金銭等の出資が、無償又はそれに近い形でなされることが必要です。

相続人の財産が維持又は増加したこと

寄与分の評価

金銭等出資型の寄与分の評価方法は、「出資した財産の相続開始時における時価×裁量割合」です。

裁量割合とは、一切の事情を考慮して、裁判官が寄与分の額を調整するものです。例えば、裁量割合を0.7として、寄与分を減じること等があります。

出資した財産全額が寄与分として認められるのではなく、相続人と被相続人の身分関係、財産の種類及び価額、出資の理由、出資された財産の利用方法、出資時から相続開始時までの期間等、一切の事情を考慮して、出資の全部又は一部が寄与分として認められることになります。

なお、不動産を無償で貸した場合には、賃料相当額に使用期間を乗じた金額、融資の場合は、利息相当額が寄与分として認められる可能性があります。融資については、銀行等から融資が受けられない状況で融資し、そのおかげで事業が持ち直した場合には、利息以上の寄与分が認められる可能性があります。

療養看護型

疾病、認知症、高齢による動作困難等の被相続人の療養看護をした場合です。徘徊等のおそれがある被相続人に対する見守りも含まれます。①寄与が「特別の寄与」であること、②被相続人の財産が維持又は増加したことが必要です。

特別の寄与

ア 療養看護の必要性

①療養看護の必要性と、②近親者による療養看護の必要性の両方が必要です。

イ 特別の貢献
ウ 無償性
エ 継続性

1年以上、被相続人の療養看護をしたことが必要であるとする見解があります。

オ 専従性

相続人の財産が維持又は増加したこと

療養看護をしたことによって、職業看護人に支払う費用を節約できたといえることが必要です。精神的な援助のみでは寄与分は認められません。

要介護度

寄与分が認められるためには、要介護2以上の状態にあることが目安となります(注意すべきなのは、要介護度は身体機能に着目したものが多く、精神機能を反映していない場合があることです。)。

もっとも、要介護1であれば寄与分は全く認められず、要介護2であれば寄与分が認められるとすれば、要介護2の寄与分の評価額は、要介護2の報酬相当額から要介護1の報酬相当額を控除すべきとする見解もあります。

介護保険制度が施行される平成12年3月以前の寄与については、診断書、カルテ、日記、写真等を参考に、要介護度を推認することになります。

寄与分の評価

療養看護型の寄与分の評価方法は、「療養看護の報酬相当額×看護日数×裁量割合」です。

療養看護の報酬相当額は、例えば、訪問介護における介護報酬基準額に基づき、介護報酬単価表と要介護基準時間表を用いて算出する等します。

療養看護の報酬相当額は、有資格者の報酬相当額を参考にしたものであること、介護機関への支払額であって介護者自身の報酬ではないこと、扶養義務を負わない者への報酬であること等の理由から、そのまま寄与分の金額として評価することはできません。そのため、「裁量割合」として、通常、0.5~0.8の割合を乗じることによって調整がされます。0.7が平均と思われます。

深夜に看護した場合には、裁量割合で調整されることが多いです。

無償で建物に居住していた場合等

被相続人の療養看護をする代わりに、近くの被相続人所有の建物に無償で居住していた場合等、居住の利益がある場合には、それを控除した額が寄与分となります。もっとも、療養看護のため近くに居住せざるを得なかった場合等は、居住の利益は小さくなると考えられます。

被相続人に代わって療養看護をした場合

被相続人が扶養義務を負う者(配偶者、未成熟の子、直系血族、兄弟姉妹等)が、扶養を必要とする状態にあり、被相続人も扶養可能な状況で、被相続人の代わりに療養看護を行ったり、療養看護費用を支出する場合があります。この場合には、寄与分が認められる可能性があります。

扶養型

被相続人を扶養した結果、被相続人が出費を免れた場合です。①寄与が「特別の寄与」であること、②被相続人の財産が維持又は増加したことが必要です。

特別の寄与

ア 扶養の必要性

この場合には、疾病の存在は不要です。

イ 特別の貢献

扶養義務がないのに扶養を行った場合や、扶養義務の範囲を著しく超えて扶養した場合が挙げられます。この場合の扶養義務の範囲は、後述の扶養料の求償請求の場合と異なり、各相続人の経済状態に応分する必要はなく、法定相続分の割合で考えれば足りるとする見解が多数です。

ウ 無償性
エ 継続性

わずかな期間では足りず、相当期間扶養したことが必要です。

被相続人の財産が維持又は増加したこと

寄与分の評価

扶養型の寄与分の評価方法は、「扶養のために支出した金額×裁量割合」です。扶養のために支出した金額は、生活保護基準(生活保護手帳に記載)や、総務省の家計調査を参考にすることもあります。

裁量割合は、一切の事情が考慮されます。裁量割合が「1-寄与した相続人の法定相続分」となることもあります。

扶養料の求償請求との関係

上記の寄与分の主張とは別に、自らの扶養義務を超えて被相続人を扶養した者は、他の扶養義務者に対して、各自の経済状態に応分した求償請求をすることができます。
①寄与分としての主張と②求償請求のいずれかを選択できるのです。

なお、扶養型の寄与分の主張が認められなかった後、扶養料の求償請求を求める審判を申し立てることができるか否かにつき、紛争の蒸し返しにはあたらないとした裁判例があります。

財産管理型

例えば、被相続人の不動産の管理をした場合等です。①寄与が「特別の寄与」であること、②被相続人の財産が維持又は増加したことが必要です。

特別の寄与

ア 財産管理の必要性

例えば、所有するアパートについて管理会社がある場合に、相続人の1人が定期的に掃除をした程度では、寄与分は認められません。

イ 特別の貢献
ウ 無償性
エ 継続性

財産管理を相当期間したことが必要です。

被相続人の財産が維持又は増加したこと

寄与分の評価

財産管理型の寄与分の評価方法は、「第三者に委託した場合の報酬相当額×裁量割合」です。

例えば、建物修理等はリフォーム業者の標準工事費用、庭木の剪定等はシルバー人材派遣センター等の料金、賃貸不動産の管理は不動産会社の請負料等を参考にします。

被相続人の資金運用

被相続人の資金を運用して、資産が増えた場合であっても、寄与分は認められません。

資金運用にはリスクがあるので、リスクを負担しないまま利益だけを寄与分として主張することは許されないのです。

その他

相続放棄

例えば、Aが死亡し、相続人が子B、子C、子Dの時に、相続人Bが相続放棄した場合、子Cと子Dの相続分が増えます。これを寄与分とみて、子Cが死亡し、相続人が子B、子Dの時に、子Bは寄与分を主張できるでしょうか。

原則として、寄与分は認められません。

もっとも、先行する相続の類型、相続放棄の理由、相続放棄からの期間等を考慮して、寄与分を認める余地があるとする見解もあります。

先行相続の寄与分

例えば、Aが、父親の相続の時に、父親に対する寄与分を主張せず相続放棄をしたにもかかわらず、母親の相続のときに父親に対する寄与分を主張することはできません。

債務の保証

被相続人の債務を保証した場合や担保を提供した場合に、寄与分を認める見解もありますが、保証債務を履行した場合や担保権が実行された場合に限るとする見解もあります。

寄与分の限界

生前贈与との関係

寄与行為をした相続人に対し、被相続人が生前贈与をしていた場合でも、寄与行為の価値に満たない生前贈与しかない場合には、別途寄与分が認められる可能性があります。

遺贈との関係

寄与分は、相続財産から遺贈の価額を控除した残額を超えることはできません。遺贈は寄与分によっても修正されないのです。

例えば、被相続人Aには、子B、子Cがいる場合を考えてみましょう。遺産1000万円、AはBに対して、500万円を遺贈する旨の遺言を作成しました。
この例で、Cが800万円の寄与分を主張したとします。

遺産1000万円のうち、Bへの遺贈500万円を控除すると500万円しか残りません。そのため、Cの寄与分は、500万円を超えることはできません。

相続分の指定との関係

相続分の指定は、寄与分によって修正されます。

例えば、被相続人Aには、子B、子Cがいる場合を考えてみましょう。遺産1000万円、AはBの相続分を3分の2と指定する遺言を作成しました。この例で、Cが700万円の寄与分を主張したとします。

まず、遺産1000万円から寄与分700万円を控除します。
当該みなし相続財産300万円にそれぞれの相続分を乗じます。

Bは、300万円×2/3=200万円
Cは、300万円×1/3=100万円
Cは寄与分を加算するので、100万円+700万円=800万円

結局、B200万円、C800万円(合計1000万円)になります。

遺言との関係

遺言に記載したときに効力が生じる事項は、法定されています。寄与分に関する事項を遺言に記載しても、効力は生じません。

もっとも、寄与分に関する遺言の解釈として、相続分の指定、遺贈、遺産分割方法の指定と解釈できないかどうかを検討することになります(この場合には遺留分減殺請求の対象になると思われます。)。

また、寄与分に関する遺言を作成した被相続人の意思は、遺産分割の際の一切の事情として、考慮されます。

遺言により、全ての遺産の分割方法が定められている場合には、遺贈の場合と同じく、寄与分によっても遺産の分割方法は修正されないと考えられます。

遺留分との関係

遺留分と寄与分の関係を規律した法律上の規定はないため、遺留分を侵害する寄与分を定めることも可能です。もっとも、寄与分を定めるにあたり、遺留分も考慮されるため、実務上は、遺留分を侵害しないよう寄与分が定められることが多いと思われます。

遺留分減殺請求をされた相続人が、減殺額を減少させるため、寄与分を主張することはできるでしょうか。

結論として、この主張はできません。理由としては、遺留分減殺請求が地方裁判所等で審理される訴訟事項であるのに対し、寄与分は家庭裁判所の審判によって定められるものであること、遺留分額の算定にあたって寄与分を考慮する規定がないことです。

なお、寄与分が認められた結果、遺留分を害されたとしても、寄与分に対して遺留分減殺をすることはできません。寄与分が問題となる遺産分割手続きと、遺留分減殺請求手続きは場面が異なるからです。

また、遺留分減殺請求によって取り戻された財産を遺産分割の対象として、寄与分を主張することはできません。

もっとも、遺留分減殺請求をした後に、さらに遺産分割手続をする必要がある場合(例えば、相続分の指定や、割合的包括遺贈につき、遺留分減殺請求をした場合等)には、寄与分が認められる可能性があります。

相続人が被相続人に対して請求権を有する場合

相続人が被相続人に対する寄与をした結果、被相続人に対して何らかの請求権(報酬請求権等)を取得した場合、相続人は当該請求権を行使することができます。この場合でも、相続人は寄与分を主張することができるでしょうか。

両説ありますが、実務上は、①寄与分としての主張と②請求権の行使のいずれかを選択できるとされています。

消極的寄与

相続人が、被相続人の財産を減少させる行為をした場合には、その者の相続分を減少させることはしない見解が多いと思われます。

もっとも、寄与分を定める際の一切の事情(民法904条の2第2項)としては、考慮されると思われます。

寄与分の譲渡

寄与分だけを譲渡することはできません。

これに対し、相続分を譲渡した場合、相続分に含まれる寄与分も譲渡されるのか否かにつき、両説ありますが、肯定する見解が多いと思われます。 なお、寄与分だけを放棄することはできるとする見解が多いと思われます。他の相続人全員に対して意思表示する必要があります。

そのため、一旦寄与分放棄の意思表示をしてしまうと、後に寄与分が主張できなくなるおそれがあります。

相続開始後認知された相続人

相続開始後認知された相続人は、遺産分割がすでに終了してしまったときは、他の相続人に対して価額のみによる支払いを請求できます。

この時にも寄与分は考慮されます。

もっとも、価額の支払請求は地方裁判所が審理し、寄与分は家庭裁判所が審理する不都合があります。1つの見解として、価額の支払請求と寄与分の請求をあわせて家事調停の申立てをすれば、この不都合を回避できるとするものがあります。しかし、調停が成立しなかった場合には、結局、価額請求は地方裁判所が審理し、寄与分は家庭裁判所が審理することになってしまうと思われます。

寄与分を定める手続き

裁判所が、寄与分を定める審判をするには、遺産分割審判の申立てとは別に、寄与分を定める処分の申立てが必要です(相手方は、他の相続人全員)。

寄与分を定めるにあたっては、裁判所の裁量が認められています。これに対し、特別受益の場合に裁量はないとする見解が多いと思われます。

遺産分割審判申立ての前に、寄与分を定める処分の審判の申立てをすることはできません。また、遺産分割審判の前に、寄与分を定める処分の審判をすることはできません。

もっとも、遺産分割審判申立ての前に、寄与分を定める処分の調停の申立てをすることはできます。また、遺産分割審判の前に、寄与分を定める処分の調停を成立させることはできます。

遺産分割と寄与分を定める審判が併合してされたときは、寄与分に関する審判のみに対し独立して即時抗告することはできません。

他方、遺産分割審判に対してのみ即時抗告することはできます。

寄与分の証拠及び調査

寄与分を認めるための証拠としては、次のものが考えられます。

①家業従事型
確定申告書、給与明細書、決算書
②金銭等出資型
不動産登記事項証明書、被相続人及び相続人の預金通帳、領収書
③療養看護型
要介護認定通知書、診断書、介護サービス利用票、日記、写真、家計簿
④扶養型
被相続人の非課税証明書、被相続人及び相続人の預金通帳、家計簿、領収書
⑤財産管理型
金銭出納帳、家計簿、相続人の預金通帳

なお、家庭裁判所の手続内で寄与分に争いが生じた場合には、家庭裁判所調査官による事実調査が利用されることがあります。相続人に対する面接が中心です。

寄与分と税金

寄与分が認められた分、増加した財産についても、相続税が課されます。

もし寄与分が定まっていない段階で、相続税の申告期限になってしまった場合には、まずは法定相続分の割合で財産を取得したものとして、相続税の申告をすることになります。

その後、遺産分割により寄与分が定められた相続人は、修正申告書を提出します。もっとも、他の相続人が更正の申告(寄与分だけ、自身の取得額が少なくなったことの申告)をしない限り、修正申告は義務ではありません。

税法は頻繁に改正されるので、詳細は税理士にご相談ください。

おわりに

寄与分は、遺産分割の際に争われることが多い問題の1つです。

困ったときには、お気軽にご相談ください。